ドタドタと、盛大に足音をたてて来たのは土方だった。

 彼の歩き方は変わらないな…気配を消す時は綺麗に消すのに、こういう時は誰にでも分かるように自分の存在感を出してくる。
 可愛い…と、言ったら彼に斬られそうだが、私はそう思う。

 バァーン!!

 と、勢いよく道場の襖を開け放った。
 襖の向こうから出て来たのは、勿論の通り、土方である。表情は逆光して見えないが、空気からして怒っているように感じられる。
 長年付き合っていると、空気などで感情などが分かってくるから面白い。最近は、足音でも分かってしまうのでついつい笑ってしまう。
 足音が大きい時は、怒っているか、気に食わない事があった時。比較的足音が普通の時は、相談しに来る時。 足音がしない時は、甘えに来た時と、決まっていた。

「何が可笑しいんだ?」

 いつもより、低い声で聞いてくる。

 あぁ、やっぱり怒っている。

 そう思うと、ついつい笑ってしまう。何故なんだろうか?山南がたまに思う事である。


 土方の考えている事が分かるから?


 土方の表情が分かるから?


 いや、違う。

 ただ、思うに、彼のこういった表情はすべて、“山南一人だけ”に見せているからではないだろうか?
 局長のためにと、汚れ役を自ら引き受け、「鬼の副長」と隊士からは恐れられる存在となった土方。そんな土方を影から支えているのが山南である。
 表ざたは仲が悪い様に見えるが、それは、話し合いでの二人の意見が食い違うからである。
 過激派の土方に対し、山南は穏健派である。そんな二人の意見が一致するはずもない。ましてや、水戸学を学び、北辰一刀流の免許皆伝で武士の出である山南に対し、土方は百姓の出で、2〜3年前までは薬売りをしながら道場破りをしていた身。
 端から見れば差は歴然である。それに、土方は、できる男と、モテる男は嫌いである。どう見ても、端から馬が合うはずもなかった。

「何がそんなに可笑しいんだ?サンナンさん」

 先程よりも太陽が傾き、表情が見えるようになった。
 額に青筋が見える。
 目元がピクピク動いているように見えるのは気のせいだろうか?

「いえ、別に可笑しくて笑っているんじゃないですよ」

 そう言いながらも、まだ笑っている。

「まぁいい。で、なんであんたは一人で後始末をしてんだ?」

 口調は先程よりも険しくなっている。

「私がやりたいと、平助に頼んだからですよ」

 いつもの微笑みでいつものように返す。相手が隊士や沖田達なら、簡単に騙されていただろうが、今対人しているのは土方である。
 近藤の為にと、土方は自ら汚れ役となり、山南はそんな土方を影から支え、時には知恵を貸し、二人でいくつもの汚れた事をしてきた二人である。
 そんな二人にはいつの間にか、気付かないうちに信頼関係が出来ていた。勿論二人共、そんな風には微塵思っていないが。山南が足音で分かる様に、土方も山南の微笑み方で分かる。
 説明されたらいまいち分からないが、土方が言うには『目元と口元で分かる』と、言っていた。あの、年中無休で微笑みを張り付けた表情を見て分かるというのだから、神業に近い。

「俺の前では、その顔はやめろ。見ていて虫ずが走る」

「なんの…事でしょうか?」

 さぁっと、周りの空気が変わった。ピリピリと、辺りを漂っているのは、殺気に等しいものである。

「何がしたいんだ?自分の体調も管理出来ないお前が道場で一本など、ましてやこんな暑い日に…試合中に倒れたら副長の名に恥が付くぞ」

「貴方に言われる筋合いはないと思いますが?」

 ピリピリと空気が張り詰めていた時。

「そうですよ。貴方が言える事ではありません。ましてや、山南さんもですけど」

 悠々と、何事もないかのように道場の中に入ってきたのは、皆刀だった。

「墨を貰いに行くにしては長いと思ったら、こんな事をしてたとは…」

 もうちょっと素直になればいいのに。

 毎回思う事である。

「何しに来た」

 鋭い目眼で僉刀を見た。見たといいよりは、射ぬいているに近い。

「貴方を探しに来たんです。いつまで経っても帰って来ないもんだから、山南副長の部屋に行ったら二人ともいないし、逃げられた!?と、思って探しに行こうと思ったら、ちょうど藤堂先生方が来たから聞いてみたら、ここに居ると言う事が分かったんですよ」

 早口かつ解りやすく簡単にここまでたどり着いたいきさつを話した。気のせいか、僉刀の顔にはやり遂げた感が見えるのは目の錯覚だろうか?

「お前には関係ない事だ、失せろ」

「そうもいきませんよ。私は貴方を捜しにここまで来たんです。それを貴方個人の事で新選組全体の仕事を滞らすことは出来ません」

「…」

 端から見れば、子供と大人の喧嘩に見えるのは間違いではないであろう。

「わかった。わかったからちょっと待て!!」

「…」

「なんだ…その疑っている眼は」

「いえ、なんでも」

 いつもの喧嘩が始まろうとしていた。




 似たり寄ったりな二人だ。

 試衛館の門人となってから思い始めた事である。
 二人はまだ言い争っている。それは子供のように、口喧嘩をしている。決着がつかなきゃ、実力行使に出るだろう。
 実力行使と言っても、刀を抜いて決闘だ!!なんてのではなく、子供がするような喧嘩をそのままするのだから、見ているこっちは、ついつい呆れてしまう。
 子供がそのまま大人になったようなものだ。

「早くしないと局長にちくりますよー」

「なんでそうなるんだよ!!かっちゃんは関係ねーだろう!!」

「この際だから言っておきますけど―」

 子供だな。けど、見てて飽きない。試衛館にいた時に戻ったみたいだ――。





Don't be so bullheaded.-4