いつから自分には“居場所 ”が無くなったのだろうか?
 山南は時間がある時は、そのことを考える。


 土方君と汚い事に手を染めるようになってから?


 局中法度が出来てから?


 意見が対立するようになってから?


 それとも、もとから?


 考えれば考えるほど、だんだん心が黒く染まっていくながわかる。自分の考える方が間違っているのを心の片隅で思いながらも、やはり、考え出したらきりがない。やめればいいものん無駄に考え、そして後悔し、また悩み続ける。
 山南は、自分には居場所が無いと思い始めた時からそれをずっと続けていた。
 土方君…私はもう。




「――!!」

「――みさん!!」

 遠くの方で声が聞こえた。
 耳を澄ますと、自分を呼んでいる声が微かに聞こえる。ふと、今自分が何処にいるのかと思った。周りを見渡して見たが、白一色だけで、他には何もない。360℃ぐるりて見ても、白だけである。
 まるで、白銀の世界に一人だけ取り残されたみたいだ。
 ぼーっとする頭で何となく思った事である。

「山南さん!!」

 また声が聞こえた。さっきよりははっきり聞こえる。
 どうやら…呼んでいるのは皆刀君らしい。

「…山南さん」

 !!!…まさか…。

 皆刀の声に隠れて、違う声が聞こえた。何時も聞く声で、聞いていると安心する声。

 あぁ…あそこへ行かなければ…。

 手を延ばした。
 握り返してきた手は、とても温かくて大きく、懐かしい感じがした。




「…」

 視界がぼやけているが、見慣れた自室の天井が見えた。

「……」

「あ!気が付かれましたか?」

 ひょっこりと視界に顔を出したのは、皆刀だった。ほっとした表情をしていた。

「えぇっと…」

 起き上がろうとしたが、皆刀に制され、また横になった。

「倒れた拍子に頭を打ってますから、まだ横になってて下さい」

「倒れたって…」

「土方さんは暑さにやられたんだろうって」

 失礼しますよと言い、山南の額に置いてあった布を取り、近くに置いてあった桶に浸し、また山南の額に置いた。
 適度に絞った布が火照った肌に心地いい。

「…土方君は?」

「土方さんならさっきまでいましたけど、先程出て行きましたよ」

 私と入れ違いでと、付け足した。

「…そうですか」

「何かされましたか?」

 「した」ではなくて「されたという表現にちょっと笑いがおこる。

「いえ、誰かが手を握っていたような気がして…私の勘違いですかね」

 右手をじっと見て、ちょっと顔が赤いのは暑させいかそれとも…。
 そんな山南の表情を見た皆刀は、ついつい口元が綻んでしまう。いかんいかんと、自分に言い聞かせた。

「…土方さんじゃないかな?山南さんをここまで運んで来たのも土方さんだし」

「運んだって…」

「道場でいきなり倒れられたんで、土方さんが山南さんを部屋まで運んだんです。私はその間に桶とかの用意をしてましたんで、その間のことは、何をしていたか知りませんが」

 だから、何かされませんでしたかって聞いたんです。そう付け加えた。

「……」

 土方君と皆刀君の言い争いを懐かしいと思いながら聞いていると、だんだん意識が遠退いていった。
 気付けば自室にいた。その間のことは…その間のことは………覚えてない。




 びっくりしましたよ!いきなり倒れられるんだから。ついつい何回も名前を呼びましたよ。びっくりと一緒に、嬉しい事もありましたけど。 何が嬉しいかって?土方さんはやっぱり山南さんの事を大切にしてるんだなーって思いまして。
 だって、私が山南さんが倒れたと思った時には、土方さんはもう山南さんの所に飛んで行ってましたから、私と口喧嘩をしながらも、 山南さんを気にかけてたんだなーって思って、微笑ましいばかりです。けど、山南さんに変な事して泣かせるのは許しませんから。




 くそ、なんで俺があいつを部屋まで運ばなきゃだめなんだ!!!暑いってわかってるくせに道場で一本なんかやって……本当に馬鹿か。 それにしても、あいつまた痩せたか?抱き上げた時に本当に男かって思ったぜ。あんな細腰でよくまー男を投げ飛ばしたもんだ。てか、あいつ…覚えてないよな?俺が手を握ってた事。覚えてたら……最悪だ。寝かせてから皆刀がなかなか来ないからこいつの 部屋にいた。いたのはいいが、あまりにも死人のような顔をしてたから、ついつい名前を呼んでしまったのは失態だった。呼んだ後に、いきなり手を伸ばしてきたから、ついつい握り返しちまったけどよ…なんであんな事をしたのか…。

 そんな事を考えていると、いつの間にか山南の部屋の前にいた。

「…」

 仕方ない。この時間なら起きているだろうと思い、入る事を決意した。

「山南さん、入るぞ」

 断わるのと同時に障子を開けた。

「……」

「…」

 スースーと、寝息をたてて寝ていた。どうやら皆刀はいないらしい。

「…」

 静かに山南の隣へと腰をおろした。
 山南は気づかないのか、いまだに寝ている。

 たしか…こいつ、昨日結構遅くまで起きてたよな…。
 土方も昨日は遅くまで書き物をしていた。その途中、分からないところがあったので、ためしに山南の部屋に行ってみたところ、灯りがついていたので、遠慮なく聞きにいったのを思い出した。

 あの様子だと、まだまだ起きていたんだろう…。
 そんな事を思っていると

「…うぅん」

「!!!」

「…」

 どうやら寝返りをうっただけらしい。

 ……ちょっと待て、鬼の副長と言われている俺がなんで寝返りうっただけのこいつにビクビクしなきゃいけねぇーんだよ!!!

 一人でぶつくさ言っていると

「ひじ、かた…さん?」

「!!!」

 勢いよく肩がびくついた。

「山南さん…起きたのか?」

「人の気配がしたもので」

「あぁ…すまん」

「……いぇ、気にしてませんよ」

 ふにゃふにゃした笑顔で土方に微笑みかけた。

「…!!」

 そんな無防備な笑顔を見せるなよ!!

 心の中で叫ぶ土方であった。

「…ねぇ、土方さん」

「なんだ?」

「私の居場所って…どこですかね?」

「山南さんの居場所…」

 ちょっと驚いた風で聞き返してきた。山南自身、何を聞いているんだと思った。どうも暑さにやられて頭まで変になってしまったらしい。

「……あんたの居場所はここにあるじゃねぇか」

 そういい、いきなり山南の体を引き寄せた。
 いきなりの事だったので、何も身構えていなかった山南は、されるがままになっていた。頭もまだぼぅっとしているせいもある。

「本当に…私の居場所はここなんですか?」

「ここじゃ不安か?」

 あまりにも真っ直ぐ見つめてくるので、土方の表情もしだいに真剣になっていく。

「……」

「不安なのか不安じゃないのかはっきり言ったらどうだ?」

「……不安じゃ、ありません。ただ、私の居場所は本当にここでいいのかと…」

「俺がここでいいと言ってんだから、ここがあんたの居場所だよ。これ以上の理由がいるか?」

 それでも俯いた表情をする。

「…この馬鹿。あれほど一人で抱え込むなと言っただろ!!安心しろ。お前の居場所は常に俺の側にある」

 強く抱きしめた。山南の表情は見えない。見えないほうがいい時もある。
 かほそい声で、はいと、聞こえた。
 それだけで十分だ。
 土方はそう思いながら、山南を抱きしめていた。

 あんたの居場所はここだ!!!

 土方は強く思った。そう思わなければ、山南がいなくなりそうだったから。
 夏特有の陽射しが障子を透して部屋を照らしていた。

「明日も暑くなりそうだな…」

「えぇ…」





Dno't be so bullheaded.-5