「きえぇーーい!!!」

 竹刀を構えて数分がたち、先に先手を仕掛けたのは原田だった。
 原田が上段から振り下ろし、山南はそれを難無く遇い正眼から突いたが、原田は素早く後ろへ体を引いて突きから逃れた。
 しばし睨み合いをした後に、次に先手を仕掛けたのは山南だった。正眼の構えからは変えずに先程と同じ突きで来た。原田も負けじと構えを正眼にし、山南と同じ突きで勝負にでた。刀同士でやっていれば切り傷の一つくらいは付いていたであろう。
 竹刀と竹刀がぶつかり合い、力押しでは原田の方が上だが、技量では山南の方が上だった。
 刀でいうなら腹同士がぶつかり合った直後に、原田の先頭は狙っていた山南の喉仏へではなく、床へと向けられていた。山南の巧みな手捌きで原田の先頭は下へと遇われ、山南の先頭が原田の喉元数センチの所でピタリと止まった。
 原田が参った。と言うと、審判をしていた永倉新八が一本!と右手を上げた。お互い、ハァハァと荒い呼吸を繰り替えしながら、定位置に戻り、一礼した。

「流石は北辰一刀流の免許皆伝者の山南さん、構え方に隙が無くて要らない動作がないから鮮やかですよ」

 面を外し、滝の様に流れる汗を振り払う。荒い呼吸を繰り返しながらも呼吸を整えた。

「いやいや、原田君が竹刀だったから取れたようなものだよ。これで槍だったら取れてたか…」

 面を外した山南は、いつもとは違った顔を見せた。頬からは汗が伝い、顎からポタポタと雨水が屋根から伝い落ちてくるように汗が落ちていた。
 眼鏡を掛けていないせいなのか、はたまた久々に汗を流したせいなのか目元がいつもより穏やかに見える。

「山南さん…大丈夫ですか?」

 山南が暑さに弱い事を知っている藤堂が側まで寄って来た。顔に心配と書いているのが見える。

「大丈夫だよ。ちょっと暑いけど」

 いつもの微笑みをし、大丈夫大丈夫と言い張る山南、そんな山南の様子を疑う藤堂。前も大丈夫大丈夫と言って倒れた事があるので心配なのである。

「……そんなに信用ないですか?」

 困った顔をする。

「…そういうわけじゃないんですけど…本当に大丈夫なんですね?」

「大丈夫ですよ。さぁ、原田君達と一緒に汗を流して来なさい、そのままだと風邪をひきますよ」

 心配性だなぁと思いながらも、藤堂のその優しいさが有り難かった。

「さぁ、汗を流して来て下さいね。そのままだと風邪をひきやすくなりますか」

 稽古をして風邪をひいたとなると、土方君が怒りますから。そんな事を最後に付け加える。言えてる言えてると、原田が頷くなか、永倉が聞いてきた。

「そういう山南さんこそ汗をかいたままでは風邪をひきますぞ」

「私は後で行きます。まずは皆さんが汗を流して来て下さい。私は防具を片付けておきますから」

「それなら僕がやりますよ!!」

「私がやりたいんです。やらせて下さい」

 譲らないと言っている微笑みをしている。
 その表情をしばし見た藤堂。諦めたように、わかりました。無理はしないで下さいね?
 と、最後の方は山南に聞こえる小さい声で言った。

「大丈夫です。心配性だなぁ」

 口元に手を当てて苦笑した。額からは汗が流れていた。




 キョロキョロと辺りを見渡す土方。何やら誰かを探しているらしい。第三者から見たら、結構挙動不審である。

『どーせ、最近ろくに話しもしてないんでしょ?』

 あのやろー今度言ったら局中法度に照らし合わせて斬ってやる。

 そんな物騒な事を考えながらも、いっこうに捜し人が見つからないので、これまたいらついてくる。と、捜し人ではないが、いつもの三馬鹿が井戸で水浴びをしていたので、試しに山南の居場所を知らないか聞いてみた。

「平助!!」

 三馬鹿の中で山南と同門の藤堂 平助に声を掛けた。

「あ、土方さん。どうかしたんですか?」

「山南さんを見なかったか?」

 困ったような表情で話す土方。そんな土方の表情を見た藤堂はこの人でもあんな表情出来んだ…。

 そんな事を思っていた。

「山南さんなら道場の方に居ますよ。先程まで僕達と一緒に稽古をしてましたんで」

 と、言い終わる前に、土方はありがとよ!と、言い、その場を足速に後にした。




 頭の心がぼーっとする。
 稽古をする前からどこと無く頭が痛いとは思っていたが、まさかここまで悪化するとは…土方君には知られたくないな……。

 そんな事を考えながら立ち上がるが、力が入らずにその場で崩折れる。手に持っていた眼鏡が危うく割れそうだった。

「…」

 これは…相当やばいか…。
 柱に手を掛け、支えにして立ち上がる。体は重いままだが、どうにか立ち上がる事が出来た。が、問題はこれからだ。

 どうやって歩こうか…。
 竹刀を支えにして防具を片付けるしかないな…。

 そう考えると、行動に移すのは、早かった。
 先程まで使っていた竹刀に手を掛け、杖の要領で歩いて行った。




Don't be so bullheaded.-3