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最近の土方はどこか苛々していた。本人は隠しているんだろうが、バレバレである。
自分の思い通りにいかないことがあれば直ぐに怒るし(てか、元からだけど)、立ったり座ったりと、落ち着かない雰囲気だった。珍しいことに、山南とも最近仲が良くないらしい。
と、いうところは所詮噂の域なので、定かではない。
試しに、苛々している理由を考えてみた。
山南のいつもの蘊蓄話でもなければ、沖田達のからかいでもない。
最近の薩長の動きに敏感になっているのか…はたまた土佐か肥後か…なんて兆しは糞もない。
他にこれといった理由が浮かばない。私情なのか山南との仲が拗れて苛立っているのか…どっちにしても、 それは土方の私情である。
結局、知るのは土方だけである。
「山南さんは知りませんか?土方さんが機嫌悪い理由」
そう山南に聞いてきたのは、沖田と藤堂である。
沖田が何時もよりちょっとムスっとしているのは気のせいか?藤堂もどこか蒼白である。
「土方君に何かしたんですか?」
沖田の問いに答えるよりも先に聞いてみた。
答えたのは沖田である。
「何時ものようにちょっかいをだしたんですけどーそしたら物凄く怒られました。こんなことする暇があるなら、見廻りしてこい!!って」
眉間にがっつり皺寄せて、眉はつり上がって…あれじゃぁ鬼ってよりは、阿修羅ですよ。
と、ぶつくさ文句を言った。
沖田の話しを聞いてみると、なんでも沖田は、朝から土方をからかったかはいいが、すこぶる機嫌が悪かった土方に逆に返り討ちにあったらしい。
そのせいで土方同様機嫌が悪い。
そんな沖田の愚痴を一番に聞いていた藤堂は、顔色が悪そうだ。理由を聞いてみた。
「えぇっと…」
ゴニョゴニョ話し始めた。
何でも、ちょうど土方が激怒した所に居合わせたらしいのである。怒られていた張本人の沖田は、けろっとした風に受け流していたとか。
「あの顔は夢に出てきそうです」
そう言って肩をブルっと震わせた。
元から土方を怖がっていた藤堂。阿修羅の如く怒った土方を見たら…ますます怖がるに決まっている。
可哀想に…よほど機嫌が悪いんだろう。
そう思いながら、先程の沖田の質問を思い出す。
「土方君の機嫌が悪い理由…うぅん……」
腕を組、最近の土方の行動を思い出す。
最近…最近……。
頭の中で繰り返す。
5日前は…土方君の部屋で隊のことでいろいろと話し合ったな…途中から喧嘩に等しかったが。
3日前は……あ、確か縁側で句を詠んでいましたね。
眉間に深い皺を作りながら、私が近づくのにも気付かないくらいに没頭してましたね…後ろから声をかけたら、「何であんたがここにいんだよ!!」って、逆切れされました。
部屋に戻るためだと言ったら、納得してましたけど。
昨日は、何やら部屋の中で右往左往してたのを目撃しました。
今日は…そういえばまだ見てませんね。
思い出したことを沖田達に話した。
山南の話しを聞いて、これと言った情報はなかったのか、山南に礼を言って、源さぁーん!!、と走り出していった。
「……」
子供のように走り出していった二人を見送ってから、山南はふと笑い出し。
「余程怒られたことに腹をたててるんですね…沖田君は」
ねぇ、土方君?
と、障子に向かって問い掛けた。
「…」
カラっと、障子を開ければ、そこにはムスっと胡座をかいた土方がいた。
「だから言ったじゃないですか、態度に出過ぎだって」
「うっさい」
やはり嫌が悪いらしい。
「それよりも、話しってなんだよ?3日前に言ってた話しってのは」
頭の中で、はて、なんだったかな?、と考えた。
「…あぁ、はいはいあの話しですね」
どうやら思い出したらしい。
「…あんた…忘れてたのか?」
「そんな事ありませんよ、誘ったのは私なんですから」
話しはちょうど3日前に戻る。
山南が話していた、土方が俳句を詠んでいた時である。
「土方君、何を熱心にしてらっしゃるのですか?」
わかっているのにあえて聞く。山南もたまにお人が悪い。
「な!!何であんたがここにいんだよ!!!」
盛大に肩を強ばらせ、顔を真っ赤にして手にしていた句を懐へと隠した。
筆は近くにあった、筆入れに置いた。
「何で、と言われましても…私の部屋はそこですから」
と、指を指した。
「あぁ……」
ばつが悪い。
ガシガシと髪をかく。やっぱりどこかイライラしている。
「土方君、この際だから言っておきますけど」
何だよ、と悪態をつきながらも渋々山南の話しを聞くらしい。
「その態度、改めた方がいいですよ。周りが迷惑してます」
ずいっと右手の人差し指を土方の鼻先に突き付けた。グリグリと鼻先で指を左右に動かす。どこか楽しそうだ。
「痛い、痛いってば!山南さん!!」
山南の指を振り払い、先程までグリグリ押されていた鼻先を撫でた。
「何をそんなにお怒りなんですか?私でよければ相談にのりますよ。お金以外で」
新選組隊士はひもじい。幹部も例外ではない。
「…だよ」
「?」
「…壊れたんだよ」
「何がです?」
「だから、壊れたんだよ!!」
「だから、何が壊れたんですか!?」
「煙管だよ!!!」
・・・。
「じゃぁ、何ですか。貴方が今までイラついていた理由は、煙管が吸えないことでイラついていたってことですか?」
腕を組、少し眉がつり上がっているのがわかる。どこかに青筋が出てきそうだ。
「そんなに吸ってたんですか?私が見た限りでは、あんまり吸ってないように見えましたけど」
「そりゃそうだ。あんたの前じゃあんまり吸わないようにしてた。あんた、煙そうにしてたし」
「そんなに表情に出てましたか?」
「全然。煙を出した時に、眉を少し寄せてたのを見てから、あんたの前では極力吸わないことにした。」
この男は…本当に細かく人を観ている。
「壊れたって…いつ頃から?」
「7日くらい前に、羅字(らう)のところにヒビが入って、煙がもれんだよ」
と、ぶつくさ言っている。
「じゃ、ちょうど良かったんだ」
「あん?」
「いや、何でもありませんよ」
朗らかに土方の睨みを受け流す。
「土方君。3日待って下さい」
土方の顔の前に指を三本出した。
「は?」
「だから、後3日待って下さい。3日後に、私の部屋まで来て下さい」
そう言って山南は自室へと歩いていった。その場には、一人、呆気にとられている土方だけがいた。
「で、何なんだよ?あんたの用事って」
ムスッとした土方を尻目に、山南は押し入れを開け、何やら取り出した。
「…?」
淡い色の敷物から出したのは、何やら長方形の木箱だった。
見た目は細長い木箱である。蓋には何やら作者の名前なのか、はたまた店名なのか、達筆な字で書いてある。達筆過ぎて逆に読めない。
赤い紐で綺麗に結ばされている。他にはこれといった特徴はない。
「…何だよ…それ」
「開けてください」
そう言い。すぅっと、土方の前に出した。
「…」
シュルシュルと紐を解き、慎重に蓋を開けると…。
「!!」
蓋を開けると、そこには綿に包まれるようにしてたばこ入れがあった。
黒地に紅い梅の刺繍がされている。どう見ても特注品である。梅の刺繍なんて中々ない。あっても桜である。
「こりゃぁ…どうしたんだよ?」
と、頭にハテナマークを浮かべながら向かいでニコニコしている山南に問い掛けた。
「前から頼んでいたんです。君が煙管を吸っているのは知ってましたから」
それに、前の御礼も込めて、と。
「礼?……あぁ、あの櫛のことか?」
結構前の話しである。
山南土方から淡いいちょう色の櫛をもらっていた。
「あの櫛はいろんな意味でいわく付きでした」
何やら思い出すように天井を見上げる山南。それに同調するように土方も天井を見上げた。
「ありゃ確かにいわく付きの一品だった」
「そのいわく付きの一品を使っている私は変わり者ですね」
何時もの様ににこにこと微笑む山南。土方も自然と笑みが溢れる。
「それにしても、黒に朱が生えているな、梅ってところが良い」
「貴方が桜よりも梅の方が好きなのは知ってますから、作ってもらう時に頼んだんです。桜じゃなくて梅にして下さいって。そしたら、変わったお人ですなぁって笑われました」
照れながら梅の経緯を話す山南。頬を朱に染めて俯き加減で話す彼は、愛らしい。
「は、桜が好きな人間の方が可笑しいね」
「では、私は可笑しな人間ですか?」
「あんたは別さ」
そう言うと、土方は山南の顔が見たいのか山南の頬へと手を添え、くいっと顔を上げた。山南もその手に自分の手を添えた。
「君の発言は何時も矛盾している。けど、どこか的を射ている」
外では、小鳥が夫婦で仲好く鳴いていた

煙管
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