「私の脇差しが、ですか?」
熱が下がり、山南が普通に起きれるようになったのは、坂本と出会ったあの日から五日後だった。
「あぁ、あんたの脇差しが見当たらないんだ」
熱が下がったからと言って仕事に手を伸ばそうとする山南を見張りながら、土方は脇差しの事を訊ねた。
皆刀や源さんに聞いたが、二人共、無かったような気がする。と言う返答が返ってきた。
「……まさか」
「心当たりでもあんのか?」
「あ…いや…」
言い淀む。
「なんだ、俺には言えない所にでも忘れて来たのか?」
「そんな所ではありません!!…あ、すいません」
ちょっとからかい半分で言っただけなのに、真顔で否定されてちょっとびっくりした。
「何処なんだ?」
「……多分」
「多分?」
一拍置いてから言った。
「坂本さんの所だと思います」
「坂本さんだと!?あの人、こっちに来てたのか?」
「えぇ、暫くはこっちに居るとか」
坂本ねぇ…。
土方は、心の中でそう呟いた。
「あんたの脇差し、坂本さんが持ってる確率の方が高いか?」
「はい…多分」
「その坂本さんが居るって言う床は何処だ?」
「いえ、私が取りに…」
「風邪引きは大人しく風邪引いて寝てろ!」
「それは聞き捨てなりません!!」
「風邪が悪化したらどうすんだよ!!今だって見張ってなきゃ仕事やる気だろ!」
「私の分の仕事も貴方がやっているんでしょ?熱も下がりましたし…」
「駄目だ。後1日は大人しくしてろ。で、坂本さんが居る所ってのどこだ?」
暫し黙ってから、諦めたのか坂本が居ると思われる宿の名を教えた。
鴨川から少し離れた所にその宿はあった。
質素な造りで、本当に営業しているのか?と疑ったが玄関の戸を開けると、その疑惑は直ぐに無くなった。
「おこしやす」
中年くらいの女性が丁寧な物腰で土方を迎えた。
落ち着いた色合いに、流れ出るような花の模様がその女性の品の良さを引き立てている。
「土方と言うが、ここに坂本と言う男は泊まってないか?」
「土方様ですか…新選組副長の土方 歳三様で御座いますか?」
「…なぜそれを?」
自然と刀に手を伸ばす。
「坂本様から新選組副長の山南 敬助様か土方 歳三様のどちらかが来たら渡して欲しいと言伝てがありましたので。
ただ今お持ちしますので、客間の方でお待ち下さい」
こちらです。と言い、土方を客間へと案内した。
「あ、ご挨拶が遅れました。私、女将のたまきと申します」
戸口の所へと座り、深々と頭を下げ、土方を客間へと案内すると、坂本からの渡し物を取りに行った。
「…」
案外造りは良いんだな…。
玄関先から思っていた。外見と異なり、内装はしっかりとしていた。質素な造りの中にある上品さを調度品や色合いなどで醸し出し、木の匂いが血生臭い日常を忘れさせてくれる。
「お待たせ致しました。こちらで御座います」
慣れた手付きで持って来た風呂敷包みを開くと、そこには脇差しと文が2通あった。
「こちらが土方様で、こちらが山南様にとおっしゃっておりました」
「すまん」
文と刀を受け取った土方は、女将に礼を言うと早々に宿を後にした。
「ほれ、脇差しと文だ」
宿から早々に帰って来ると、土方は山南の部屋へと向かった。
「ありがとうございます。…そちらの文は?」
「坂本からだそうだ。女将が坂本から渡すように言われていたらしい。俺の分までありやがる」
文と脇差しを土方から受け取り、坂本からの文とやらの封を開ける。
「……!!」
「なんて書いてんだ?」
土方が覗く。
「……!」
文には一言だ書いてあった。
『待つ』
山南にはこの一言で何の事を言っているのかが分かった。
「山南さん…」
「…土方君のには、何て書いていたんですか?」
「…あぁ、まだ見てない」
懐へと仕舞ってあった文を取り出し、封を切った。
「……」
「…何と?」
「ほれ」
と、渡された文には
『何れは山南を返してもらう』
との事。
「っな!?」
文の内容に悶絶する。
「どうやら、坂本は俺に喧嘩を売りたいらしい…」
土方の額に青筋が浮かぶ。
「土方君…」
「山南」
額に青筋が浮かべた顔が真っ直ぐに睨み付けてくる。
「は、はい」
「あんたは俺のもんだ。誰にもやらんし、やる気もない!」
そ う言い、土方は早々に部屋を後にした。部屋に残された山南は呆然とし、ハァッと気がついた時には、「ひ、土方君!?」と裏返った声をあげておどおどした山南がいた。
これが、土方からの“初告白”だと山南が知るのは、もうちょっと先の話し。

選択-後編。
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