「山南さん。今日が何の日か知ってるかい?」

 土方が問いかけて来た。土方がこんな風に問いかけて来る日は、絶対に何かがある日。
 山南は、今までの付き合いで分かった事の1つである。

「今日…ですか?」

 さて、何があった?土方君の誕生日は5月だ。それじゃ…近藤さんか?いや、違う。沖田君も違う。
 そもそも、土方君がそんな事をわざわざ聞いてこない。
 何かあったかな?

 後あったとすれば…。


「…やっぱりか」

 土方の納得した声がした。どこか悲し気だ。

「何がですか?」

 勝手に聞いてきて勝手に悲し気に納得されるのは、山南としては納得出来ない。

「いいや、総司のヤローと賭けをしたんだよ」

「沖田君と?」

 いきなり沖田の名前を出されてちょっと困惑する。

「っそ。総司と賭けをして、俺がその賭けに負けたの。今」

 そう言うと、曲がり角からひょっこりと顔を覗かせた。

「沖田君」

「こんにちは、山南さん」

「もう帰ってたかと…」

「そこら辺で一と遊んでました」

 沖田の頭上に斎藤の頭がひょっこりと出て来た。

「どうも」

 と、軽く会釈した。

「歳さん。約束、守ってくださいの」

「わかった。早く帰れ」

 シッシッと、手で追い払う。

「はいはい。じゃ、山南さん、また明日」

 斎藤の手を取って早々にその場から去って行った。なにやら嵐のようだった。

「で、どうゆう賭けをしてたんですか?」

 沖田が去って行った方向を見ながら山南が土方に訊ねた。

「あぁ…今日さ、バレンタイン…なんだよね」

「えぇ、そうですね」

「そう、そうなんだよ…って!分かってたのかよ!?」

 土方が勢い良く山南の肩を鷲掴みにする。

「えぇ、朝から授業に行く度にチョコだのクッキーだの渡されましたから…」

「けど、あんたの机に上がってなかった…」

「紙袋に入れといたんです。机の下にありませんでした?黒い中位の紙袋」

 そう言えば…あったかもしれない。

「なら、なんでさっき答えなかったんだよ!!」

「そんないきなり訊かれたって咄嗟に出てくるものですか」

「あぁー!総司に好きなもん1個買ってやんなきゃだめじゃねぇか!!」

「そんな賭けをしてたんですか?」

 頭を抱える土方を尻目に、山南は呆れながらも話しを進めた。

「この際、賭けの事は自業自得だと思ってください。私なんかでそう言う事をするからです。おかげで渡しずらくなったじゃないですか」
「あぁ?」


「おかげで渡しずらくなったじゃないですか!貴方への…“チョコ”を」


 最後の方は声が小さかったが、土方には十分だった。

「敬助」

 優しく相手の名前を呼んでやれば、相手は顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「本当、あんたは可愛いな」

 優しく山南を抱きしめてやれば、山南はそれに答えるように土方の胸に寄り添う。

「私は確かにこう言った行事に無頓着ですが、大切な人に思いを告げる日ぐらいは覚えてます」

 山南にとってのバレンタインは、大切な人に日頃の感謝を伝える日なのである。

「自ら無頓着だと思っているなら、もう少し改善するように努力をしてくれないのか?」

「貴方のためになら…善処します」

 耳まで真っ赤にしてしまった。

「……嬉しい事言ってくれるじゃねえか」

 言われた本人まで顔を赤らめている。

「土方さん…今晩、空いてますか?」

「あんたの為に空けといたよ」

 そう言って、もう一度山南を抱きしめた。


「今日は定時で上がるぞ」


「はい」





貴方のためなら。





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