山南はその日、遅くまでノートパソコンと向かい合っていた。
 来週から期末テストだ。いつもなら、2〜3週間前の間に作って、生徒達にそれなりにテスト範囲を教えるのだが、今回は質の悪い風邪をひき、生徒の揉め事をどうにかし、挙げ句の果てには急な研修とで、未だにテスト問題が作れていない。

「ふぅ…」

 中間からの復習問題。
 中間からやってきた範囲からの問題のリストアップ。
 問題用紙に回答用紙。
 答えの解説用紙。
 生徒から集めたノートのチェックにプリントの答え合わせ。
 やる事がまだまだある。ふと、壁に掛けてある時計に目をやった。時刻は22時を回っていた。

「遅いな…」

 土方が帰って来ない。そりゃ、帰って来ないのは当たり前…なんて思うかもしれないが、この二人には違った。
 なんてったってこの二人、一つ屋根の下で一緒に同居してますから。




「すっかり遅くなったな…山南…起きてるか?」

 すっかり暗くなった空を眺めながら、土方は白い息を吐いた。首に巻いたマフラーが本当に助かる。そう思える寒さである。
 土方は、21時過ぎまで残業していた。理由は期末の問題作りである。
 土方は山南と違って、大体1週間前くらいに作る。問題のリストアップはその前から決めてある。
 授業の進み具合と、生徒の小テストの出来具合とで毎回決めている。めんどくさがり屋に見えて、実は計画性のある男だ。山南も計画性のある男だ。ただ、土方と山南の違いは、1つある。
 土方はノートの点検などはしないし、ノートで点数を付ける気はない。綺麗に色ペンで書いたからって点数が増える訳でもないし、黒と赤しか使ってないからって減点もする訳でもない。土方は、“ノートを書いている”を前提にして授業をしているので、端から生徒のノートを見る気はない。それに、土方のテストは全てノートからの問題だ。

 書いていない。

 休んだ。

 寝てた。

 何てのは、自分の責任なのでお構い無しにいく。それに文句を言う奴は、俺の授業を受ける資格はない。そう思っている。

「さみい…」

 家に帰ったら温かい珈琲が飲みたい。そう思いながら、家路を急いだ。




「お、電気ついてら」

 駅に程近い所に山南と一緒に住んでいるマンションがある。
 駅に近く、職場からはやや遠いい所。そう言ったのは山南だ。駅の周りにはスーパー等、生活するには十分な店が並んでいる。
 家から駅まで徒歩10分。学校までは二駅乗れば直ぐそこだ。それを徒歩で行くと、1時間弱掛かる。その1時間弱掛かる道のりを土方は歩いて来たので遅くなったのだ。


 ピンポーン。


 何処にでもあるインターホンの音。

「…」


 ピンポーン。


「…寝てんのか?」

 土方がズボンの後ろポケットから鍵を出した。

 ガチャガチャ…ガチャン。

「あぁ?鍵開いてんのか!?」

 それが分かると、急いで自分でかけた鍵を開け、部屋へと入った。

「山南!!……ぁ」

 そこには、タオルケットに身を包んだ山南が、テーブルに凭れた掛かって寝ていた。腕の前には電源が付いたままのノートパソコンがあった。

「はぁ…寝てんのかよ……うん?こいつ…メシ食ってないのかよ!」

 山南が凭れた掛かって寝ているテーブルを見ると、茶碗が2つ逆さに置いてあり、おかずが盛ってある皿には、サランラップがしてある。茶碗の前に箸が2善。どうやら山南は土方の帰りを待っていたらしい。

「…」

 ついつい顔が綻んでしまう。

「山南…やまなみ」

「…う……ん?」

 山南がうっすらと重い瞼を開け、声がした方へと振り向く。

「ひじ…かたさん?」

 たまに山南は土方の事を君付けではなく、さん付けで呼ぶ時がある。極々限られているが、土方はそう呼ばれるのが好きだ。大概呼ばれ時は、山南が土方に気を許している時だからだ。

「ただいま、山南」

「お帰りなさい」

 満面の笑みで微笑み、土方に抱き付いた。肩に掛かっていたタオルケットがずり落ちる。




「随分と遅かったですね?」

 2人で遅い夕食を食べながら土方の遅い帰宅について聞いていた。

「あぁ、テスト作ってたら9時済んでてな、9時の電車の時刻に間に合わなく…次の10時だったから、久々に歩いて帰ったらこんな時間」

「朝方と午後は1時間に2、3本ありますけど、7時過ぎからは1本しかないですからね…」

「それにしても」

 土方が話題を変えた。表情がちょっとニヤついている。

「晩飯食べずに待ってたのか?」

「違います。仕事をしてたらこんな時間になってたんです」

「わざわざおかず作ってラップして茶碗出してか?それに、あんたが自室で仕事しないの…珍しいな。大抵は部屋に篭って仕事してるあんたが」

「…」

「ご飯も食べずに…居間で仕事して待ってるなんて」

「知りません!!私はただ、仕事が…「はいはい、わかってるって」

 山南の言いに土方が割ってはいる。

「あんたが俺の事心配で、待ってたのは」

「誰がそんな事!!」

「お顔真っ赤かにして…可愛いよ」

「〜〜っ!!!!土方君なんてもう知りません!!!」

 勢いよく席を立ち、テーブルに置いてあったパソコンを持って自室へと入って行った。

「いつまで経っても初な奴。ま、そこが可愛いんだけど」

 さて、どうやって山南に機嫌を直してもらおうか…。

 残ったご飯を食べながら考える土方。ふと、視界にさっきまで山南が使っていたタオルケットがあった。

「…」

 そのタオルケットを引っ張って自分の体を包み込んで、さて、どうするか…、と悩み出す土方であった。





タオルケット。