もうそろそろ秋に近付いて来た。
 今まで活き活きとした緑だった植物達が今度は落ち着いたきいろへと代わり、最後には紅葉へと代わる。
 山南は、その代わり映えの時期が好きだった。

「お元気そうですな、山南はん」

「山崎君ですか…」

 縁側でちょこんと座っていた山南の前に現れたのは、監査方の山崎 蒸だった。
 滅多に屯所にはいない存在である。大半は土方からの仕事で日々江戸の町を歩いたりはたまた相手方に潜入してたりと、忙しい。
 そんな山崎が今山南の前にいるのは珍しい事である。

「今日はちょいと時間が空いたんで、久々に屯所内でも歩こうかと」

 歩く次いでに新入りの顔を覚えて行こうと思いまして。山崎らしい理由である。

「そうですか。最近はずいぶんと忙しそうですね、島田君もここ最近見なくなりましたが」

「えぇ、最近は物騒な世の中になりましたから、片っ端から怪しい所には偵察なり潜入なりしてますから」

「忙しい事は良い事ですよ。私なんて最近は暇をもてあましてますから」

「そうですか?私から見れば山南さんの方が忙しそうに見えますけど」

「そうですか?」

「えぇ」

 口角を上げてニコリと笑う。
 山崎君の笑顔は初めて見たかもしれない。そう思う山南。

「朝は早くから起きてかたの稽古。朝食が終わったら土方副長と会議と口論。
その後は尾形はん方と会計の仕事に土方はんから渡された仕事。
途中で沖田はんと藤堂はん方にかまって原田はんに連れられて、帰って来てからは残りの仕事を終えて土方はんと尾形はん方に渡してきた帰りやろ?」

 と、朝からの山南のスケジュールを雪崩の如く言った。

「…」

 確かに、山南は朝から土方と一悶着し、近藤と源さんが止めに入った。
 それが終わってからは勘定方の方に顔を出す次いでに仕事をしたし、向かう途中で土方と出会して仕事を押し付けられた。
 その後は、自室で仕事をしようと思った矢先に沖田と藤堂に捕まり、方の稽古に付き合い、原田にはちょっと行きたい所があるとかで付き合わされて帰って来てからは自室に戻ってから怒濤の如く仕事を終わらせて出して来た帰りだ。

「あ!山崎さん」

 山南が固まっている後ろから皆刀が歩いて来た。

「おぉ、これは皆刀はん。お久しゅう」

「何言ってるんですか、この前会いましたよ」

「おや!やっぱりばれてましたか?」

「えぇ。ところで、山崎さん。土方さんが呼んでましたよ」

「あちゃ…仕事の話しかぁ…見逃してくれへんか?これから気晴らしに屯所内の探索でもと」

「山南さんと話しをしていただけでも十分気晴らしになったでしょ。土方さんにばれたら切腹もんですよ」

 ほらほら、早く行く!と、まるでお母さんが学校に行くのをぐずっている子供を強引に行かせるかのように 山崎の背中をぐいぐい押し進めた。

「ほな、山南はんまた」

「それでは、失礼します」

 山南にヒラヒラと手をふって、皆刀と一緒に廊下の奥へと消えて行った。 1人残された山南は、ただぼぅっと庭を見ていた。
 ふと、空から何かがふって来た。

「…?」

 かさりと頭の上に降ってきたものを取ってみた。

「…銀杏ですか」

 どこから降ってきたのか一枚の銀杏が山南の頭に降ってきた。

「…にゃぁ」

 猫の声が聞こえた。
 塀の方を見てみると、白猫が一匹いた。

「あの猫が運んできたんでしょうか?」

 山南がおいでおいでと手招きをしたが、白猫は素知らぬふりで顔を拭いていた。

「白雨!どこだ?」

 塀の向こうから何やら名前を呼ぶ声がした。
 塀の上にいた白猫がその声に反応するように塀から軽々と飛び降りた。どうやらあの白猫は飼い猫だったらしい。

「白雨…にわか雨ですか…飼い主の人はなかなか良い名前をつけます」

 白猫がいた方へと銀杏を太陽へと掲げる。きいろい銀杏が太陽の光を浴びて透けて見えた。



 きいろが何にでも溶け込むようで怖かった。





きいろ。