ケホケホと、何日か前から咳をしていたのは知っていた。
 本人はならべく俺の前ではしないようにしていたのも知っていた。




「ケホッケホッ…大丈夫ですよ」

 出てしまった咳を恨みながら、隣で睨んでくる土方に向かって言った。

「風邪はな、引き初めが肝心なんだよ!咳だ鼻水だって言ったって風邪だ!」

 と、力説してきた。

「分かってます。前にも土方君から聞かされました」

「なら、大人しく寝てろ」

「それは無理だ」

「何でだ」

「私の仕事と君から回って来た書類に目を通していない」

「そんなの後で…」

「君が二日前に持って来て、今日までに目を通しておけと言っていた物だよ。他にも今日やら明日までに片付けなきゃいけない物もある。会計方も忙しくてね…」

「…」

 苦虫を50匹ほど噛み潰した様な顔をした。

「そう言う事で、失礼する」

 そう言い去って土方の部屋を後にした。
 一人残された土方は、ぶつぶつ言いながら


「悪化したって知らないからな」


 それから三日後。土方の予想は見事に的中した。




「俺の忠告を聞かないからだ」

 枕元に座りながら土方は山南に話し掛けていた。

「…」

 山南が何も言い返せないのを良い事に土方は山南に色々とグチグチ言い出した。山南はそれを右から左に聞き流していた。
 山南が風邪に倒れたのは、土方の忠告を聞いた三日後だ。その前からそれなりに咳などをしていたが、早急に片付けなきゃいけない物などが立て続けに舞い込んで来たものだから、睡眠時間を削って仕事をしていた。それは土方も一緒だ。なのに、毎回風邪を引くのは山南の方ばかり。
 年の違いなのか体の作りが違うのか…風邪を引くたび思う事である。

「二、三日は大人しく寝てろ、良いな?」

「分かっています」

 ムスッと頬膨らませて土方に言い返す。眼鏡が無い分ちょっと幼く見え、熱のせいでうっすら赤くなっている顔でそんな子供の様な事をされると、可愛く見えてしょうがない。

「あんた、子供かよ」

「大人です」

「大人ななら、大人しく他人の忠告に耳を傾けるべきだと思うけどな?」

「……善処します」

「…ま、分かってくれたんなら良いさ。まずはゆっくりと休んでくれ」

 そう言って部屋を辞そうとする土方を呼び止めたのは山南だった。

「…あ、土方君」

「なんだ?」

「あ……」

「どうした?何処か痛いのか?」

 枕元へと膝まついて山南の顔を覗き込んだ。

「あ…あの」

 熱で潤んだ瞳が土方を見上げているのがなんとも言えない。

「側に……居てくれませんか?」


「!!」


 山南の発言に驚くのを隠せれない土方。

「私が眠るまでで良いので…駄目ですか?」

「あぁ…良いぜ。あんたが寝るまでと言わず、ずっと居てやるよ」

「それでは、仕事が溜まる一方ですから駄目です」

 何時もの土方を叱る口調になり、そして、どちらともなく笑い出した。

「あんたが寝て起きるまで側に居てやるから、まずはゆっくり休め」

「土方君も、ちゃんと…休んで……」

 ギリギリまで保っていた意識がついに限界を迎えてしまったらしい。

「…可愛いな」

 山南の寝顔を見ながらニヤニヤする。一先ず部屋を一回辞そうと立ち上がると クイッ と、着物の端を軽く引っ張られた。

「おぉっと…」

 何事かと見てみると

「…あ」

 山南が土方の着物の端を掴んでいた。

「…ふ」

 ついつい口元が緩んでしまう。
 山南の滅多に見れない行動に、心の底で喜んでいる自分がいるのが良くわかる。

「しゃーない。仕事は後回しだ」

 着物の端を握っていた手を取り、一回両手で包み込んでから布団の中へと戻し、山南の横へと寝そべった。

「…たまには良いか」

 そう言って布団の中に潜り込み、山南を自分の胸に抱き締めながら眠りに入った。




「…ぅん」

 何やら身動きが取れない。
 うっすらと目を開けてみると、見えるのは…?

「…お、起きたか?」

 上から声が聞こえてきた。
 聞こえた方へと顔を上げると

「おはよ、山南」

 土方だ。

「…土方さん?」

 寝ぼけた頭では、何で土方がここにいるのか?までは頭が働かない。
 一先ず、土方が隣で寝ているのは理解して…いるのかは分からない。

「どうだ?少しは良くなったか?」

「…あぁ…はぃ」

 山南の額に手を当て、熱は下がったな…とか呟いている土方をぼぉーっとした顔をしながら見てる山南。
 そこで、ふと気づく。

 何で土方が隣にいるんだ?と

「…!!!!!!!!!!」

 ここにきてやっと自分は今どんな状況なのかを理解した。

「ひ、土方君!!!!!」

「どした?」

「な、なななな何で一緒に寝てるんですか!?」

 顔を真っ赤に染めながらアタフタする山南。
 それを横目に見ながら一人ニヤニヤしてる土方。

「あんた、俺の着物の端掴んでたんだぜ?」

「な!?」

「それ程一人になりたくなかったんだ…あんた」

「……」

 土方の話に黙り込んでしまった山南。

「…うんな黙り込むなよ」

「…」

「山南さん」

「…はい」

「風邪が治ったら良い事しよう」


 バシィーーーン!!!


 と、いい音がしたのは言うまでもない。





あとがき。
遅くなりました。風邪ひきました山南さん。
ご希望に・・・・副えましたでしょうか?最後の方は結構微妙なできに・・・ってか、どうみても微妙なんですけど。
風邪ひいたんだから、土方さんに甘える山南さんにしてみました。




たまには甘えても。