遠いどこかで俺を呼んでいる声がした。 「土方君・・・・土方君ってばっ!起きてください土方君っ!!!目を・・・・・開けなさいっ!」 「や・・・・なみ・・・・?」 「そうですよっ!!!副長命令ですっ!意識を・・・・保ちなさいっ!!」 (なんでそんなに必死なんだよ?俺がどうかしたか?ちょっとくらい寝せろよ・・・・) 「土方歳三っ!!あなたはこんなにもいい恋人を残して逝くつもりなんですかっ!?あと少しで救護班が来ますっ!それまでは目を開けていろっ!」 つくづくあんたは敬語しか似合わねぇな・・・・。そう思ったけど口には出せなくて。 「あなたが死んだら私はどうすればいいんですか?自分の片割れがいなくなって・・・・半身だけでどう生きていけと?許しませんから。そうなったら呪いますからね・・・・」 俺を掴む手が強まったのが分かった。体中が軋んで痛くて動けなかった。頭もぼ−−−っとするし熱い。 「死んだりなんかしないでください。それじゃあ私を殺す人がいなくなってしまうではないですか・・・・・」 思い出した。確か俺は高熱が出て・・・医者に行った帰り刺客に襲われたんだった。絶対安静といわれていたのに激しく動いた俺は意識を失って・・・・!? 「・・・・・やま・・・み、おま・・・・怪我・・・・・」 「私の心配をするくらいなら自分の心配をよろしくお願いします。そんなことじゃあ死にませんから私は・・・・・」 ぼやける視界に入ってきたのは体中怪我した山南でしかも泣いてやがった。 「全部浅い傷ですから。あなたこそ死なないで下さい。熱が上がってますよ・・・・・」 額に添えられたのは山南の冷たい手のひらで気持ちよかった。 「・・・・・ご・・・めん・・・」 「謝るくらいなら病気なんかに罹らないで下さいよ。あなたが健全であれば私も心おぎなく戦えますから」 俺を庇って戦っていた山南は怪我をしていた。 「もう少しですから。もう少しできますからね・・・・。すみません・・・・私が動けるのであればあなたを担いでいくのですが生憎動けないようなので・・・・」 山南の右足首はあらぬ方向へと折れていた。 「ちょっとドジっちゃいましてね・・・・折れたかな・・・・・?」 あはは。と笑っているものの痛々しい姿だった。 「あ・・・・雨まで降ってきましたね。動けませんよねぇあなた。目を開けたままでいてください不安になりますから」 近くの木を見つけると山南は土方をそこに連れて行った。引きずるようにしてようやく木につく。 「痛たた・・・・大丈夫ですか?身体は濡れていませんか?」 「・・・・・・いい・・・・・」 何もできない自分が嫌になった。 「泣かないで下さいよ・・・・お別れみたいじゃないですか・・・・・」 上から降ってきたのは山南の声。それも声がくぐもった涙声だった。 「泣きたいのはこっちのほうですよ・・・・・っ!あなたが倒れたとき死んじゃたかと思ったんです・・・・・。だからあなたが泣くのはお門違いだ・・・・・」 熱い身体もどっか慣れてきて少しは楽になった。 「大丈夫だ・・・・少し楽になってきたから・・・・・」 「そうですか・・・・でも絶対安静ですよ。熱は下がっていませんから・・・・・」 静かに雨の音でかき消されそうなくらい小さな声で言った。 「副長っ!!!無事ですか副長っ!?」 「山南さ〜んっ!土方さんも生きてますかっ!?」 遠くから聞こえたのは沖田の声と隊士の声だった。雨も通り雨だったのか晴れてきた。 「ようやく来ましたか〜・・・・まったく私の役目は終わりです。後は任せました・・・・・・・」 意識が遠のいて山南は座ったまま横に倒れた。 「土方さんはそのまま羽織をかぶせて八木さん家まで運んでください。山南さんは足が折れてるみたいだから慎重に扱ってください」 沖田が的確な指令を出した。 「土方さん山南さんのこと泣かせたんですか?山南さんの顔涙で濡れてましたよ」 「・・・・るせぇ・・・・・」 「こりゃ死にそうにないや。なんならここにおいて行きますよ」 「・・・・・・・・・・」 隣では安心したように眠る山南。心配かけて悪かったな・・・・・・。少し笑うと土方も目を閉じた。 「あ・・・・沖田君?私は一体・・・・・・・」 目を覚ました山南は目の前にいる沖田を見た。なぜだか記憶がはっきりとしてこない。布団の中で考えてみる。 「山南さんねぇ〜土方さんとお医者さんの所行ってたんですよ」 「・・・・・・っ!!ひ、土方君はっ!?」 あわてて起き上がると右足がひどく痛んだ。起きたに促され再び横になる。 「土方さんはねぇ心配ないと思いますよ。今じゃすやすやと寝てますし山南さんが雨から土方さんを守ってくれたおかげでひどくもなりませんでしたし。まぁ元がひどかったんで三日は動けないでしょうね」 「・・・・・・そうですか」 安心すると沖田がさらに続けた。 「それで山南さんは半月は足を動かしてはいけないそうです」 「・・・・・・・・は?」 「いや〜足首が折れてるのは山南さんでも気付いていたと思うのですが意外と酷かったんですよ〜」 「・・・・・・・・・そんな」 消え入りそうな声で言ってみるものの確かにあのときは必死だったので気付かなかったが足はかなり折れ曲がっていたような・・・・・。 「身体の傷は三日で治るそうですよ。よかったですね」 「は、はぁ・・・・・」 そのとき大きく障子が開いた。そこからは原田、藤堂、永倉が入り込んできた。 「山南さん元気ぃ〜っ!?」 「怪我したって聞いたんスけどなんか男が上がったっスね〜」 「大丈夫か山南さん?こいつらが五月蝿くてスマン」 思わずその空気に流されそうになった。しかし嬉しくなって笑っておく。 「はい。大事には至りませんでした。心配してくださってありがとうございます」 「まったくよ〜土方さんも憎い男だよなぁ〜・・・・・」 原田の言葉に目を丸くしたのは山南だった。なにか原田さんは土方君に恨みをもっていただろうか? 「山南さんみたいないいやつを泣かせるなんてねぇ〜・・・・いや〜嫉妬するぜ。しかも二つの意味でだぜ」 「おっ、藤堂うまいっ!座布団一枚っ!」 「だろだろ〜?」 藤堂と原田は二人だけの世界で盛り上がっていたが山南はついていけなくて困った。しかも恥ずかしい。 「あのね山南さん。目ぇ真っ赤ですよ(いつも赤いけど)」 「えっ・・・・・」 思い当たる節はあった。あれだけ泣いて着物で見られまいとこすったのだ赤くなっても文句は言えないだろう。 「いや〜・・・・でもまさかあの土方さんが倒れるとは思いませんでしたよ。あの健康男児、それも下は元気すぎて手におえない土方さんがスよ〜っ!山南さんなら病弱だから分かるんスけどね〜・・・・井伊直弼公が殺されたときより俺は驚いたス」 「あ、俺も俺も〜っ!!あの土方さんがだからさ〜っ!!」 「お前らなぁ〜・・・・土方さんはそんな人じゃない。あの人は・・・・・・・・・・・・」 永倉がフォローをしようとしたが後がつまった。 「あの人は・・・・・?」 「なんなんだよ新八っつぁ〜ん」 「あれだ。あの〜・・・・・山南さんにゾッコンの副長・・・・・・・」 永倉は面倒くさそうにどこか違うところを見た。 「あの人を弁解できるのは山南さんしかいねぇよ。俺には無理だ」 クールに言い放つ永倉を二人が尊敬のまなざしで見た。そして山南のほうを振り返る。 「で、山南さんは土方さんのことどう思いますっ!?一度聞いてみたかったんスよね〜っ!?」 「えっ・・・・・・・」 「そうだぜ山南さんっ!あの人のどこに惚れたのっ!?」 「あ、それは僕も気になりますねぇ〜。やっぱり外見?それとも内面が意外と優しいとか?」 そりゃね〜よっ!と三人は爆笑していた。永倉はいまだ目を半開きにして興味が無いように山南を見ていた。 「で、どうなんです山南さん?実は俺もそれは気になっていたんだ」 「なっ・・・・永倉さんまでっ!?」 ぽっと頬を赤く染めると永倉は静かに首を縦に振った。眩暈までしてくる。 「惚れた〜・・・・・う〜・・・・・・・なんでだろ?」 真面目に考えてみたがなんだか答えが出てこなかった。てか惚れたのだろうか・・・・? 「なんといいますか・・・・・あたりまえだったんですよねぇいつも近くにいてくださいましたし。惚れたというのは実はそのようなものなんではないでしょうか。必然のような」 「「「おお〜・・・・・」」」 永倉以外の三人は山南にも尊敬のまなざしを送った。山南はいまだ惚れたのか・・・・?と首をひねっていた。 「流石山南さん。たんに惚れるではないのですね。ちゃんと土方さんという存在を承知した上で好きになったと」 永倉も納得したようだった。 「好き・・・・・・なんでしょうかね・・・・?一心同体というのが合っているのではないでしょうか?いなくちゃ困るみたいな・・・・・」 「あ〜確かに。副長が一人欠けたら大変ですからねぇ〜」 「お〜〜〜きたぜ一心同体発言っ!!!羨ましいっスね〜っ!」 「平助〜俺もおまさちゃんにこんなこといってほしいぜーーーーーっ!!!」 「永倉さんは好きな人とかいないんですか?あの二人みたいに」 「お、俺は・・・・・・・・・・」 恥ずかしそうに俯く永倉山南よりは大きいが背は低いほうなのでなんだか小さく感じた。 「いるんですか永倉さんっ!?わ、私は恋愛ごとに疎いのでよくは分からないのですが・・・・・・」 「俺は所詮叶わない恋だから」 「そ、そんなことはありませんよっ!こんな私でよければ相談してくださいっ!」 「・・・・・・い、いやいい」 惚れてる・・・いや気になる相手に相談されちゃ意味がないだろ。と永倉は心の中で泣いた。 「いや〜でも怪我して男が上がりましたよ山南さん。包帯が痛々しいけど似合うぜっ!」 原田が親指を立てて褒めてくれるが正直・・・・嬉しくない。 「こ、骨折はご免でしたね・・・・・」 か細い声で山南が言った。 「まぁ大丈夫じゃあないですか。それまでには土方さんも回復して仕事やってくれますよ」 沖田が暢気に言った。 「じゃあ俺たちはお暇する。怪我早く治るといいな」 「ありがとうございました」 永倉が五月蝿い二人を捕まえて去っていった。山南は布団をどかして足を見てみる。そして苦笑いをした。 「これはダメですね・・・・・」 「土方君・・・・・大丈夫ですか・・・・・?」 土方が倒れてから二日後山南は土方の部屋をたずねた。それまでは医者のところに行ったり土方の分の仕事を引き受けたりと忙しかった。 「・・・・・・・?源さんか?」 この返答に山南は苦笑いをした。いままで付きっ切りで看病したのは井上でまさかこんな夜中山南がくるとは思っていなかったんだろう。しかも布団を顔からかぶり声も聞きとりにくかったんだろう。それに山南の悪戯心がうずいた。 「そうですよ土方さん。失礼します」 障子をきちんと閉め山南が中に入った。明かりもつけないで暗かった。 「調子はどうですか?良くなりましたか?」 「俺はいいんだが山南はどうなんだ?あいつも俺と同じくらいひどかっただろ・・・・・」 これには山南もしばらく言葉を返せなかった。 「どうした源さん・・・・?」 「い、いえ・・・・あ〜あの人なら心配ないですよ。ほら、足を折っただけでしたから。それより土方さんは存外お優しい方なんですね」 「・・・・・・山南だろお前」 「・・・・・・・・はぃ」 言い当てられた山南はひょこひょこと土方に近づくと立ったままにっこりと笑った。暗くて見えないとは思ったが。それにあわせて土方が上半身だけ起き上がった。 「騙すつもりはなかったんですがあなたが間違えるから悪戯してしまいました」 「・・・・・・・・・・」 「どうかしましたか?まだ本調子じゃないの分かりますがどこか具合でも悪いんですか?」 何も言ってこない土方に痺れをきらし山南は聞いた。土方は手を伸ばすといまだ包帯がぐるぐるに巻かれた山南の右足に触った。とたんに小さな声を上げた。 「い、痛かったかっ!?」 「え・・・・えぇ。少し・・・・」 触られないように少し距離をとると山南は再び話し出した。 「お見舞い遅くなってすみませんでした。でもあまりにも早く来ても寝込んでいたでしょう?いいから寝ていてください」 「足・・・・痛いのか?」 「無理なことをしなければ痛みませんよ。杖もありますしもう日常に支障はありません。流石に御用改めなどはいけませんが・・・・・」 「身体に巻いた包帯だって取れてねぇじゃねぇか・・・・・」 山南は足を気遣いながら静かに腰をかけるとあははと乾いた笑いをした。 「身体のほうの傷は足に比べたいしたことありませんからすぐに治りますよ。それよりもあなたは自分のほうの病気を早く治してください。この年になってチャンバラで怪我をするとは・・・・」 我ながら呆れます、山南は土方を見て笑った。しかし足は痛々しいほどに包帯が巻かれていた。 「すまねぇ・・・・俺がいたせいで・・・・・」 「今日の土方君は妙に弱気ですね。いいんですよこんぐらい。命があればこんな傷すぐに消えます。だからそんなに自分を責めることありませんって」 山南は愉快に言うが土方は内心暗かった。 「俺がいなければお前、怪我しなかっただろ。下手すれば死んでたかもしれねぇっ!!!」 「新選組の副長がそんな弱気でどうするんです。何も生きているだけでいいではないですか。そんなんで落ち込むくらいなら強くなって私を守ればいい。ただそれだけのことでしょうっ!私だって死にそうなくらい青い顔したあなたを見てどれだけ自身を責めたか分かりますかっ!?無力な自分を・・・・・」 珍しく声を荒くする山南を見て土方は息を細く吐いた。 「すまねぇ・・・・これからは俺が強くなる。そして二度とあんたを泣かせるか」 自信たっぷりに言ったつもりが山南は口を閉ざした。応援してくれてもいいのに何も言わなかった。 「あれ・・・・そういえば暗くてよく見えなかったがお前目が・・・・・」 「い、言わないで下さいっ!」 着物の袖で山南は顔を隠した。 「もしかして・・・・赤くなってるのか?泣きすぎて?」 「・・・・・・・・悪いですか・・・・・」 強くこすりすぎたのが原因か山南は目が赤くなっていた。 「沖田君たちにも笑われちゃいましたこの目。そりゃもう真っ赤でしたから・・・・」 「もう大丈夫なのか?」 「怪我とかじゃありませんから心配には及びません。土方君は熱とか下がったんですか?さっきから普通に話していますが」 「俺のほうは完全とまではいかないけどほとんど復活。明日からでも働けるぜ!」 「こじらせるといけませんから明日は念のためお休みください。明日くらいは私だけで乗り越えられますから」 「そうか・・・・じゃあお前も無理しないで頼むぞ。お前にまで倒れられちゃ困るんだからな」 「はい」 山南は頷くとよろよろと杖を軸に立ち上がろうとした。しかしぐらりと倒れてしまった。 「おっと・・・・大丈夫か?」 「あ・・・・・はぃ・・・・・」 恥ずかしいことに山南は土方の腕の中にすっぽりとおさまっていた。気恥ずかしさからか土方から目を逸らした。 「立ち上がれるか?なんなら手伝うぞ」 いつもより優しい土方に山南もなんだか少し酔ってしまう。そして言わずもがな恥ずかしい。そんな自分が恥ずかしい。 「て、手伝わなくて結構ですっ・・・・・一人で出来ますからっ!」 「お・・・・・おう」 土方が不思議な目つきでこちらを見てくるのでいたたまれなくなってきた。 (なんなんだこの気持ちはーーーーっ!!!しっかりしろお前は山南敬助だろっ!!!これではまるで女子ではないかーーーーっ!!) 山南は必死で自分に言い聞かせた。その葛藤を知ってか知らずか土方は変なものを見るような目つきで見てくる。山南は大声で叫びながら走り回りたい(今は足を骨折していて走れないが)衝動に侵された。とにかく女々しい自分には耐えられない。いくら女みたいな顔をしていてもそれは山南の男としてのプライドが許さなかった。 「どうかしたのか山南?」 「い、いえっ!なんでもありませんよ土方君っ!」 「助けてくれてありがとな」 「今日は素直なんですね土方君・・・・・風邪のせいですか?」 ここまで素直になった土方を流石に山南も疑った。土方本人はいやそうな顔をしていたが。 「本当に素直になっていいのか山南?俺はそれでもいいんだけど、お前足まだ治ってないだろ。なんならヤる?」 「きっ・・・・君はっ!ちょっとくらい場をわきまえて発言してくださいっ!」 大声で怒鳴ったとたん足元が揺れた。また倒れるかと思ったが土方が立ち上がり身体を支えていた。 「またかよ。本当に危なっかしいな。部屋まで送るぜ」 「えっ・・・・でも風邪が・・・・・」 「こんな状態で刺客にでも襲われたら大変だろ。枕元には刀を準備しとくんだぜ。分かったな」 「分かりました。でも土方君は・・・・・」 「俺には源さんが付き添ってくれる。まだ心配らしいからな」 「源さんですか・・・・・それなら安心です。じゃあ少しだけ送っていってもらっても構いませんか?」 「よろこんで」 肩を土方に支えてもらい自室に戻ろうと廊下を進んだ。 「やっぱりお前にも誰かつけたほうがいいんじゃねぇのか?斉藤と・・・・はダメだ。え〜と永く・・・止めとこう。う〜・・・・沖田とか」 ようやく出てきた沖田という言葉に山南は沖田が可哀想と思うくらい激しく首を横に振った。 「沖田君が寝せてくれると思いますか?一晩中遊ばされそうですよ。その点で言えば斉藤君が一番いいの・・・・・」 「斉藤はダメだーーーーーっ!!!」 突然大声を出した土方に山南はまたもや転びそうになった。 「どうしてですか?」 「あいつはなぁ〜・・・・その・・・・・・危ねぇ・・・・・」 「ひ、土方君っ!君は仲間を疑っているのですかっ!?そんなこという人だとは思わなかったですっ!試衛館から知り合いなのにっ!」 「いや違うからな。決してそういう意味じゃねぇから。とりあえず今日は自分で身を守れな」 山南の部屋の前まで来ると土方は名残惜しそうに帰っていった。さっきの土方に納得はしなかったが山南は土方が言ったとおり枕元に短刀を置いて寝た。 カタン・・・・真夜中の部屋に響き渡った音で山南は目を覚ました。いつでも戦えるように気を張り詰めておく。 (まさか土方君の助言が役に立つとは・・・・・・) すっ・・・・と手を伸ばしてきた。それには流石に反応せざる終えなかった。すばやくその手をおさえ関節をひねり上げた。その首に短刀をあてる。 「うわっ・・・・・・」 「寝込みを襲うなんて無粋なまねしないでいただけますか。それなりの覚悟がおありで・・・・近藤さんっ!?」 「山南さんっ!山南さん痛いっ!!!」 そこにいたのは近藤だった。あわてて手を離す山南。その後はスミマセンを繰り返していた。 「いや、いいんですよ。まさか短刀まで用意しているとは・・・・・」 「スミマセン!!怪我はしていませんかっ!?」 「怪我は無いんですが・・・・・その・・・・・・胸元と足のほう肌蹴てますよ・・・・・」 「あっ・・・・スミマセン!!」 近藤が小さな声で指摘してきたのであわてて胸元と足のところをととのえた。恥ずかしい。会話が途切れてしまった。 (細い足していたな〜・・・・肌も白くて・・・・って俺はなにを考えているんだっ!ダメだ!山南さんをそんな目で見てはいけないっ!) 近藤は恥ずかしい妄想を頭をぶんぶん振って取り除くと山南に笑顔を向けた。 「ところでこのような夜更けに何用だったんですか?緊急事態とか・・・・?」 「い、いえっ!違うんですが骨折とかしたあとは熱がでるというじゃないですかっ!だから念のため診ておこうと・・・・・」 「ありがとうございます。しかし熱はでていないので大丈夫ですよ」 微笑む山南を見ていたら近藤の頭に再びさっきの妄想が蘇ってきた。 「ダメだっ!!!」 「えっ・・・・なにがですか?」 急に近藤が大声を上げたので山南は普通に聞き返してしまった。 「い、いやぁ・・・・・なんでもないんですよっ!あっはっは!!」 「は、はぁ・・・・・・」 「と、とりあえず私は帰りますからお大事にっ!おやすみなさい山南さんっ!」 「えぇ、おやすみなさい」 嵐のように去っていく近藤を見送ったのはいいが寝付けない。一度起きるとなかなか寝付けない体質だった。 「・・・・・・寝れない・・・・」 山南はもう一度起き上がると部屋から外に出た。月明かりがあたりを照らしていてとても綺麗だった。 「このままじゃ寝れそうにありませんねぇ・・・・」 「じゃあ私が添い寝をして差し上げましょうか?」 不意にかけられた言葉に後ろを振り返ろうとしたが足が動かなかった。そのまま口を手でふさがれてしまった。 「な・・・・・・っ!?んっ・・・・・んん〜っ!!」 「そんなに暴れると足の怪我悪化しちゃいますよ副長?」 「んーーーーっ!!!」 まさか自分がこんな男につかまるとは思ってもいなかった。力の限り抵抗するが一向に離されなかった。それにしてもおかしい。相手はなぜ自分が刀を持っていないことに気付いたのだろう。 「ーーーーんっ!!んんーーーーーっ!!」 声を出そうにも口がふさがれていてはどうにもできなかった。そのときだった。自分を拘束していた男の顔を月明かりが照らし出した。 「なんてな。油断してんじゃねーよ山南」 「ひ、土方君・・・・・・」 土方が手を離すと山南は呆然と土方を見た。 「偶然厠に起きたらお前が・・・・・って泣いてる?」 「悪戯にもほどがあります・・・・・あなたはっ・・・・」 「お、おい・・・・・どうしたよ・・・・・・」 おろおろと手を出すと思い切り山南に叩き落とされ頬もぶん殴られた。 「本気で舌を噛み切ろうとしたんですよっ!大嫌いです・・・・・もう近寄らないで下さい」 ぴしゃりといい終わると山南は涙が浮かんだ冷たい目で土方を見つめ自室に戻っていった。 「お、おい・・・・・・」 「話しかけないで下さい。あなたたとは絶交します」 頬が凄く痛かったが土方は山南を追った。もう山南は布団にもぐりこんでいた。 「山南・・・・・」 「・・・・・・・・・・」 返事が無い。何かマジで悪いことしたんじゃないかと土方は心が痛み出してきていた。 「マジでごめんっ!!!そんなに傷つくとは思っていなかったっ!!!許してくれっ!!」 土方が本気で頭を下げるともぞもぞと布団が動き山南が顔を出した。 「・・・・・あなた以外に触られるのダメみたいなんです・・・・・だからあんな悪戯止めてくださいね・・・・・」 かすかに聞こえるくらいの声で山南は確かにそういった。 「え・・・・・・・・今なんて・・・・」 「二度といいません」 土方としばらく目を見詰め合っていたがそれが恥ずかしくなった山南が目を逸らした。 「可愛いとこあんじねぇの。でも危ないからあんま油断すんな・・・・」 「分かってます・・・・分かってますよ」 「俺以外のやつの前で泣くなよ。泣くんだったら俺の腕の中で泣け」 「・・・・・・・遠慮します」 「いいからっ!そうしろよっ!約束な!」 ぎゅっと抱きしめてくる土方に山南は少し笑った。 「もう・・・・泣きませんから・・・・・」 「・・・・・・おう・・・」 大きな大きな満月が出ている夜のことだった。 紅い眼を映す。 |