友が目の前で倒れて行く。

 私は…その光景を見ている事しか出来なかった。



「蘭学のためだと…」

 淡々と話しをしていく。
 なにもかも吐き出したかった。
 少しでも楽になりたかった。
 少しでも…。



 今にでも泣きそうな顔で話す上司を見て…何も出来なかった

「私が小笠原に養子に入ったのは結局…楽をしたかっただけかもしれない」

「楽になりたかったのは…あの人も同じだ」

 そんな事を言い、風にあたってくると言う名の逃げ道を作ってその場から逃げた。
 襖を閉める時には……もぅ泣きだしていた。



 今夜は、月が綺麗だ。
 そんな事を先程言っていたな・・・。
 確かに、月が綺麗だ。だが、今日の月は嫌な月だ
 なにもかも……惑わしてしまいそうな程に奇麗だから。
 部屋に戻ってみると、何処にも小笠原の姿が見えなかった。



 忘れたい……という訳でわなかった。
 嫌、忘れたいだけかもしれない。
 ただ…酒を飲んでいても一次しのぎにしかならないからと思い、ふらりと一人で外に出た。



 ふらりふらりと歩いていると、いつの間にか知らない路地裏に入ってしまった。
 部屋に戻ろうと思い、来た道を戻ろうとしたら、薄汚い男達が目の前に立っている。男達は嫌らしい目でこっちを見ていた。
 本能では危険だと察しているが、心の中ではどこか人事のように見えた。
 男達に脇道に押しやられた。
 飲み過ぎたせいで足元が覚束ず、足が絡まり、ぶざまに尻餅をついてしまった。



 竜導は、内心焦っていた。部屋にいるはずの小笠原がいない事に。
 最初は酔いを覚ますために外にでも行ったのかとも思っていたが、まさかの事態も考え、竜導は一人、夜の道を足早に歩いていた。



 男達が小笠原の前にしゃがみ込み、小笠原の着物の前を容赦なく開けた。
 抵抗をしようと思ったが、やめた。
 やはり…どこか人事のように思えてならないからだ。
 ヤるなら一思いやってしまえばいい。
 そんな事を思ってしまう。
 今は……一時でも…忘れてしまいたい。



「そんな風な男でしたら…さっき路地裏の方で見掛けましたよ」

「ありがとよ」

 礼を言う間も惜しみながら竜導は聞いた場所へと走った。



 なにもかもが映像のように流れていく。
 雑音が激しい、何も聞こえない、聞きたくない。
 目を塞ぎ、顔を背けた。
 もぅ…どうでもいい。
 意識は、そこで途切れた。




 目を覚ますと、最初に見えたのは竜導の顔だった。

「・・・」

 小笠原が起きたのを確認すると、その場を離れ、窓に腰掛け、外の風景を見始めた。
 何も喋らず、何も聞かない。ただただ、外の風景を見ているだけだ。
 そんな竜導を気にしながらも、体を起こし、怪我はないかと確認した。
 体を起こす時はちょっと辛かったが、それ以外は大丈夫だった。
 立ち上がり、竜導の向かい側に腰掛け、ぼぅっと、外の風景を見た。
 外はまだ行灯に火が燈され、人々が行き交っていた。
 そんな外の風景を見ている自分達だけは、どこか別の空間にいるように思えた。
 誰も干渉しない、誰も立ち入らない、空間に竜導は何も言ってこなかった。言ってこない代わりに、竜導は黙って小笠原に抱きついた。
 最初はびっくりして窓から落ちそうになったが、どうにか体制を変え、落ちないように窓から下りた。




 小笠原は、気がつけば泣いていた。
 本人も知らぬ間に目からほろりほろりと落ちてきた。
 ほろりほろりと落ちた涙は竜導の着物に落ちては、しみとなっていた。
 止めたくても止まらない。
 しまいには嗚咽まで出てしまった。
 隣の部屋には、宰蔵とアトルが寝ている、二人は起きないだろうか?そんな事を思っていながらも、涙は止まらない。
 すると、竜導が近くにあった羽織に手を伸ばし、それを小笠原に頭から掛け、何刻かぶりに喋った。

「勝手にどこかに行くな、・・・・・・・・肝が冷えた」

「・・・」

「・・・死にに行くかと思った」

「・・・・」

「あんたは・・・悪くない、悪くないんだ」

 何も言い返せなかった・・・いや、言う言葉がなかった。


 涙は、止まらなかった。




友。